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白昼夢で踊る犬

本書に一切真実はない。全ては真っ赤な嘘である。

アウシュヴィッツの囚人写真家

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ルーカ・クリッパ/マウリツィオ・オンニス著「アウシュヴィッツの囚人写真家」がとても良かったのでブログに書き留めておきたい。

本書は囚人写真家ヴィルヘルム・ブラッセのロングインタビューを元にディティールを加え物語を書き起こしたものである。

しかしながらブラッセの心情はとても正直なもので書き起こしされたことによってブラッセに読者がよりのめり込めるものとなっていた。

写真家であったためにアウシュヴィッツで特別な仕事を割り当てられ始終身に迫る死を感じながら、恐れながら、奮起しながら記録としてのこれから死に向かう者の証明記録写真を撮る。

私は写真は好きだが詳しくはないので細かい技術面での記述はわからないこともあったのだが、少しでも良い写真を撮りたい、彼ら、彼女らが生きた証しを残したいというブラッセの写真に対する情熱は、このアウシュヴィッツという過酷な限られた、それと上との駆け引きには胸を打つものがあった。

ライティングを出来る限り工夫し、写真を撮る間は誰にも邪魔されずに(被写体に危害を加えさせずに)傷は目立たなく撮りたいというブラッセ。

ブラッセは決して聖人君子ではない。

数々のアウシュヴィッツものを読んできたがここでは聖人君子の物語はたぶん嘘なのだ。

ブラッセも自身の後ろめたさに苦悩する。

自分だけが他よりは優遇されていること。

それでも「良い写真を、何故なら写真には何かこれが外に出た時の訴えになるはずだし、これは彼ら彼女ら自身なのだ」という写真に対しての真っ直ぐな気持ちはとても強いものであった。

巻頭何ページかにわたる彼の撮った写真が掲載されている。

その眼を見て欲しい。

何か分からず不安を眼に宿した少女。

ブラッセは生体実験写真も撮らされる。

反抗すれば死だ。

写真家ブラッセの全てがここにつまっている。

臆病な彼も、上官の写真も素晴らしい出来に仕上げたい写真家の彼も、誰かを救いたい勇敢な彼も全部矛盾するものではない。

収容所ものを読むときに記憶が明瞭なのは虐待者ではなく被虐待者だ。

この違いは本当に明確である。

些細なことまで、正直に覚えているのだ。

そこに人間1人の人生の興味深さをいつも思うのだ。